研究開発

OTRシミュレータ
~培養槽のOTRの厳密計算~

長瀬産業では、好気培養時のスケールアップ因子として重要な酸素移動速度(Oxygen Transfer Rate; OTR)を従来よりも厳密に推算するシミュレータを開発しました。

開発の背景

好気的な培養では、多くの場合、培養槽内の気相から液相への酸素移動速度(Oxygen Transfer Rate; OTR)が目的物質の生産性と高く相関することが知られ、培養のスケールアップ時に重要視されます。このため、以前から、培養時の諸条件を用いてのOTRの推算が行われてきました1,2。しかし、従来法は、計算に必要な一部のパラメータ(溶存酸素濃度, 飽和溶存酸素濃度)として仮定値を用いての簡易計算であり、必ずしも正確なOTRを求められない場合がありました。そこで、OTRを従来よりも厳密な手順で推算するシミュレータを開発しました。

1.方法

培養槽周りのガス成分の物質収支式を立て、培養細胞による酸素の消費と二酸化炭素の生成、更に水蒸気飽和を考慮して、気相の酸素分圧の低下とこれによる飽和溶存酸素濃度の低下を求めます。培養細胞の酸素摂取速度(Oxygen Uptake Rate; OUR)を溶存酸素濃度の関数で表現し、更にOTR=OURの定常状態を仮定することで、条件を満たす溶存酸素濃度を求めます。すなわち、飽和溶存酸素濃度および溶存酸素濃度につき、仮定値ではなく所与の条件における理論値を求めるようにしました。得られた理論値を用いて、所与の酸素移動容量係数(kLa)の下でのOTRを推算します。
以上の計算のEQUATRAN-G(オメガシミュレーション)による処理と、計算に必要なパラメータ入力および計算結果出力のExcel(Microsoft)によるインターフェースとを実装したシミュレータを作成しました。

2.推算例

図1に推算例を示します。従来法では通気量の影響は考慮されませんが、本シミュレータでは、たとえ同じkLaであっても通気量が小さい場合はOTRが低下することが推算されました。すなわち、OTRに着目したスケールアップを行う場合、大型生産機と小型実験機で単にkLaを一致させるだけでは不十分であり、通気量の影響に留意すべきことが示唆されました。
本シミュレータは、このように、従来法では考慮されてこなかった各種条件を考慮したOTRを算出できます。特に、通気量の少ない微好気培養におけるOTRや、細胞量が多く酸素消費が大きい状況でのOTRを予測するのに有効です。

図1.OTRシミュレータ 推算例(通気量の影響)

引用文献

1.川瀬義矩, 生物反応工学の基礎(化学工業社)p.224-225 (1993)

2.吉田敏臣, 培養工学(コロナ社)p.58-62 (1998)

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