研究開発

物質生産性を向上させる技術
~tRNAの稼働率に着目して~

長瀬産業では、微生物発酵による物質生産性を向上させるために、tRNAの稼働率に着想した独自技術を開発しました。

本技術の概要

微生物を利用したタンパク質大量発現技術開発は、学術研究だけでなく工業生産においても重要な課題です(図1)。この課題の解決策として、レアコドン(宿主細胞で使用頻度の低いコドンのこと)に対応するtRNAをコードする遺伝子を宿主細胞に導入したり、遺伝子中に存在するレアコドンを使用頻度の高い同義コドンに置換した改変遺伝子(コドン最適化遺伝子)を用いたりします1-3。本技術では、宿主細胞内におけるtRNAの使用頻度を稼働率と定義しました(図2)。稼働率の高いtRNAをコードする遺伝子を宿主細胞に導入することにより、宿主細胞における物質生産性を向上させることができます4

図1.微生物発酵による物質生産

技術内容

1.tRNAの役割と稼働率の定義

tRNAは、タンパク質の翻訳過程で、コドンに対応するアミノ酸を運ぶ役割をしています。しかしながら、翻訳過程で各tRNAの使用頻度が異なることが推測されます。

本技術では、tRNAの「稼働率」という概念を導入しました。例えば、ゲノム中にコードされているコドンAAAに対応するtRNAの稼働率は、ゲノムにコードされる全遺伝子中のコドンAAAの出現遺伝子中のコドンAAAに出現頻度に対してtRNA遺伝子数の比率から算出されます。

図2には、現在物質生産に利用されている主要な微生物に対して、tRNAの稼働率を算出したものです。大変興味深いことに、生物種によって稼働率の高いtRNAの分布は異なっていました。

図2. tRNAの稼働率の分布

2.稼働率の高いtRNAの効果

放線菌(Streptomyces violaceoruber 1326)を発現宿主として、タンパク質生産量への影響を評価した結果を図3に示しました。理論計算から同定された2種類の稼働率の高いtRNA遺伝子を放線菌に導入することにより、半数以上のタンパク質において、生産量の有意な増加が確認できました。また、発現宿主を大腸菌(Escherichia coli K12株)に変更した場合でも、同様の結果が得られています。さらに、放線菌発現系においては、稼働率の高いtRNAの導入により、化合物生産へも効果があることが確かめられています。

図3.タンパク質生産量の評価

研究の波及効果

本技術で定義したtRNAの稼働率は(微)生物全般に適用可能であるため、現在利用されている多くの発現系に応用展開できます。

引用文献

1. Rosenberg AH. et al. Effects of consecutive AGG codons on translation in Escherichia coli, demonstrated with a versatile codon test system. J.Bacteriol (1993) 175(3): 716-722 

2. Brinkmann U. et al. High-level expression of recombinant genes in Escherichia coli is dependent on the availability of the dnaY gene product. Gene (1989) 85(1): 109-114 

3. Seidel HM et al. Phosphonate biosynthesis: molecular cloning of the gene for phosphoenolpyruvate mutase from Tetrahymena pyriformis and overexpression of the gene product in Escherichia coli. Biochemistry (1992) 31(9): 2598- 2608 

4. 微生物の物質生産性を向上させる方法および該方法に用いるキット. 特許第5947470号 (2016)

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